6 お見合い掲示板
インターネット上の“お見合い掲示板”に奇妙な書き込みがされてあった。
【数ヶ月のあいだだけ結婚してくれる方を募集します】 私は宮城県仙台市に住む二十歳の女ですが四ヶ月後、子どもを出産する予定です。ある事情がありまして、相手の男性の方とは結婚できず認知もしてもらえない状況です。そこで生まれてくる赤ちゃんを父親のいない子どもにしたくないものですから、戸籍の上だけで出産の前後、三、四ヶ月間だけ夫になってほしいのです。 一切ご迷惑はおかけしません。謝礼として百万円差し上げます。ただし、以下の条件に見合う方に限らせていただきます。
子羊 mei@novel.bona.jp |
「4、5番以外は合格だなあ。同じ県内じゃ、あとあとトラブルの元ということか。ふむ、おもしろそうだな」
籍を入れるとなれば当然住所などはバレてしまうので相手の要求に応えられるわけはないが、雑誌のネタに使えるのではと思い、さっそくメールを送ることにした。
住所は東京のアパートとし、電話番号は話しを詰めてからということで書かなかった。会社は、友人が勤めている証券会社にしておいて、あとはほんとのことを書いておいた。
調べられればすぐバレてしまうだろうから、まずメールがくることはないだろうと思いながら翌日アクセスしてみると意外にも返事が届いていた。
メール、ありがとうございました。 さっそくですが、入籍・離婚手続きに関してお話しします。
都合のいい日時を再度メールで送ってください。できれば電話番号をお知らせいただけないでしょうか。携帯電話だと、なお都合がいいのですが。 子羊 mei@novel.bona.jp |
「月曜定休となるとOLじゃないな。デパートガールとか美容師ってとこか。上司とか店長との不倫の果てというところだな」
今井は折り返し二日後の月曜午後二時にということで、電話番号とともに電子メールを送っておいた。
「ちょっといいかな」
義父の声がドア越しに聞こえた。
「開いてますからどうぞ」
「ああ、仕事中か。しばらく振りにどうかなと思ってね」
と言いながら、お猪口で飲む仕草をした。
「いいですね。こっちも一段落ついたところですからやりましょうか」
そのまま連れだって階下の居間に下りていく。本来コタツである座卓の上には既につまみ類が並んでいた。
「まあ、なにもないんだけどね」
ほんの三時間前には夕飯を食べたばかりだというのに、いやにあらたまった調子だった。
「あれ、舞ちゃんはまだなんですか」
時計は既に十時近くを指していた。
「土曜日だし、小林さんがいっしょみたいだからね。さ・・」
ビール瓶を傾けてくる。
「そうでしたか、うまいこといってるようですね」
「週に一度ぐらいの割合でデートしてるらしいね。まあ、このまま収まってくれればとは思ってるんだけどね」
「それにしても東大出とはねえ。よくそんなのが残ってましたね、ハハ」
「確かにね。前に勤めていた会社で上司と衝突してしまって、辞めてこっちにUターンしてきて仙台が本社の、いまの会社に再就職したということらしいね」
「でも東大出となりゃ出世するんでしょうから、あちこち支店廻りをすることになるんでしょうね。ある程度偉くなるまでは仙台に腰を落ち着けるというわけにはいかないかもしれませんね」
「う、うん」
義父はビールを入れている途中でなにか話したそうに、喉を詰まらせた。「そのことなんだけどね。始めの一、二年はどこかアパートかマンションでも借りて二人水入らずで暮らすとして、向こうは次男坊ということもあって仙台にいる分には私らといっしょに住んでもいいと言ってるらしいんですよ」
「へえ、そりゃよかったじゃないですか」
義母がなにかしら決まり悪そうにうつむき、義父も苦笑を浮かべる。
「まあ、ここも古くなってきたことだから、将来的には二世代住宅に立て替えるのもいいかなあと思ってるんだけどね。それで舞から聞いた話しなんだけど、なんでも佐智子の三回忌が・・」
「あ、そうでした。忘れてました。実は知り合いの不動産屋にマンションを探してもらってまして、気にいったところが見つかったら移るつもりでいます。ですから、法事の前になるか後になるかわかりませんが、ここを出ることになりますから」
「そ、そうかね。いやあ、残念だけど君を無理にここに引き留めておくわけにもいかないしねえ。さ、ぐいっとやって。かあさん、焼き鳥もう一度温め直してくれんかね」
義父は急に満面に笑みをたたえ、今井のコップを自分でもってまで勧めてきた。
「すまないわねえ、追い出すみたいで」
義母が腰を上げながら、頭を下げ下げ台所に立っていくのだった。